25号 料理は楽しいけど苦しいけど楽しい (2007/11/23)
今日は、料理するということについて、お話したいと思います。

蕎麦さかいはご存知のように、蕎麦屋というよりも、料理と蕎麦のコースが主体です。
私がそうであるように、飲兵衛の身としてはお酒も飲みたいし、酒を飲めば肴もほしい。最後の蕎麦を楽しみにしつつも、途中いろいろ寄り道をして、さあいよいよ蕎麦だぁぁぁ
ああ食った食った、うまかったー! というのが、やっぱりいいじゃないですか。

また私自身、料理をつくるということに、楽しさと憧れを感じていたからでもあります。
料理って、とってもクリエイティブな活動じゃないですか。
お店を始めたら、蕎麦だけじゃなくて料理も作りたい。そう思っていました。

私が料理の真似事を始めたのは、大学に入って下宿をした頃からです。そして生まれて初めて買った料理の本、なぜか神田の古本屋で買ったのですが、その名もずばり「ぼくのフライパン」。この本、今読み返しても良くできてまして、料理の作り方もさることながら、いろんなウンチクがちりばめてあってすてきです。

例えばオムレツのお話・・・
オードリーヘップバーンが麗しのサブリナという映画でオムレツの作り方を習うんだが、著者がパリのコルドンブルー料理学校に入学したら何とその先生が映画と同じ格好をしてオムレツを教えていた・・・
オムレツは古代ローマ時代からつくられていてポンペイの遺跡からもその跡が発掘されている・・・
最高のオムレツはトリュフのオムレツで、フランスではこれを食べようと誘って「ウィ」であればOKのサインである・・・
オムレツ用のフライパンは専用として決めておくべきで、油をふき取るだけで決して洗ってはいけない・・・
などなど、ほんとかどうかわからないお話が15ページにわたって書かれ、そのあとに何種類かのオムレツの作り方が書かれているという、まあ、こういう本です。

これに影響されまして、さっそく専用のフライパンを買いました。そして下宿屋の共同のガスコンロでよくオムレツを作りました。何しろ卵は安いですし、それに、思い立って3分後には食べられます。もちろんトリュフは無し。もっぱらプレーンでした。

ちなみにこのフライパン、婿入り道具に持ってきまして、今でも台所の隅にあります。たまにオムレツ作るときには使います。もちろん洗いません。

さてその後結婚しまして、しばらくして家内がインテリアコーディネーターの仕事を始めました。そうすると彼女は土日が仕事なものですから、晩御飯は私が作ることになりました。それからですね。かなり凝りはじめたのは。和仏伊中、気の向くままにいろんなものを作りました。

食材も近所の店では満足できず、当時木場に住んでいましたので、自転車で都心のデパ地下に。日本橋高島屋がお気に入りでした。

この頃の愛読書は、その名もさらにずばり「男の料理」。これは週刊ポストデラックスとして昭和55年頃から10年以上にわたってシリーズが出版された名著です。その第1巻をたまたま本屋で見て「男の料理は家事ではない。創造だ!」というキャッチコピーに、強烈に心惹かれて買いました。

でもそんな写真入のデラックス本より、文庫本で良い本がいっぱいあります。
檀一雄「檀流クッキング」、三善晃「男の料理学校」、荻昌弘「男のだいどこ」、村上信夫「楽しいフランス料理」、辻嘉一「辻留・料理のコツ」「滋味風味」などが当時の座右の書でありました。

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と、かように振り返ってみますと、もともと料理は好きだったのです。楽しかったのです。しかしそれは、自分がその日食べたいものを気分のままに作るということでありまして、まあ、そりゃ楽しいに決まってますよね。

ところが、お客様にお金を払っていただくということになりますと、これは全くその延長線上にはなく、大変なことであることに気づかされました。楽しいより苦しいのです。なんとも大胆かつ無謀なことを始めたものだと、いまさらながら思います。作る技術においてはもちろんそうなのですが、まずは何を作るか、メニューを決めるということが大変です。

プロの料理人ならば、数百種類の料理が頭の中に入っていてすぐにでも作れるということですが、素人の悲しさ、そういうわけには全くまいりません。
無い頭の中からひねり出すことはできないので本に頼ります。これまでの愛読書ではとても足りないので、あれやこれや、この1年で料理本は山ほど買いました。

でもですね、どの本にも料理はたくさん載ってるのですが、「お、これは使える」っていうのは、ほんとに少ないものなのです。

何千円も出して買ったのにほとんど使えない、という本もあります。一方、ぴったりくるのもありまして、例えば新潮文庫の「関西風おかず」。谷口さんという辻調理師学校の先生が書かれた本ですが、とても重宝してます。文庫本のほうが肌に合うのは、根が貧乏性だからかなあ。ちなみにこれも古本でした。

で、ピンと来たものを試作します。家内と二人で食べてみて、これは使える、これはダメ、これはもう少しこう工夫して、などと検討会議をいたします。そうやって、一つ一つ、試行錯誤しながらやってます。

だからうまくいったメニューはできるだけ長く続けたいのですが、でも季節は移りますし、たびたびいらしてくださるお客様には同じものを出すわけにはいきません。また同じものをずっと作っていると自分でも新鮮味がなくなってきますから、やはり入れ替えていかなければなりません。新メニューの開発は、永遠に続く課題であろうと思います。
毎週結構悩みます。これが、楽しさ7,8割になってくれると、ほんとにいいのですが・・・

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こんな風に苦心しながらやってる身としては、なんといってもお客様に「これ、おいしい」と言っていただけるのが一番うれしいことです。コースの中に一つでも二つでも、食べた瞬間に「お、これ、うまいね」と思う料理が出せると、いいなあと思います。

自分でもこういう料理を作りたいなあと一番思うのは、スーパーでも手に入る普通の食材で、料理法をちょいと工夫することによって、おやこんな風になるんだという驚きとか新鮮さを感じていただけるような料理です。そういうのがお客様にも評判が良いようです。これまでで言えば、白味噌コキールとか、栗の醍醐ソースとか、秋刀魚のわた焼きとか・・・

ひとつひとつ、ゆっくりでいいので、納得のいくオリジナルのメニューを増やしていきたいです。

そう言えば昨日ミシュランガイド東京が発売されましたですね。話題沸騰です。いつの日か、あれに掲載されるといいなあ・・・ なんて、夢ですが。
そういえばこの前、メモ片手のフランス人がやってきました・・・ ウソです。

今回も、思わず力が入って長くなってしまってすみません。
「料理は楽しくて苦しくて楽しい」という題だったのですが、最後の「楽しい」まではまだ到達してないことが、書いていて改めてわかりました。
がんばります。


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ところで、新しい家の設計がだいぶ進んできまして、先日模型ができてきました。イヤー、立体で見ると、平面図で見てるより、ぐっと現実感がましますねえ。
メルマガ読者さんには、こっそりお見せいたします。
こちらをご覧ください。でもまだ、秘密ですよ。
http://soba-sakai.com/newhome-model.html


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